愛の粒~ひなちゃんありがとう
ある日、ボクは鳥神様に呼ばれた。
「お前もそろそろ、人間界に行ってみるか?」
ボクは、ずっと望んでた人間界での暮らしに、ワクワクした。
ボクたちは、ここで愛を届ける方法を学んだあと、人間界で実践練習をする。
そこで、今まで学んだことを思いっきり、やってみるのだ。
鳥神様は、イメージを見せながら、こう続けた。
「お前が行くのは、あそこの家だ。」
ボクは、その家をしっかりと胸に刻んで、インコとして生まれた。
生まれてから3週間で、ボクはペットショップの店頭に並んだ。
そして、イメージで見た家の、小さな女の子がやって来た。
でも・・・
そこで想定外のことが起こった。
何と女の子は、こんなことを言っていたのだ。
「ママ、黄色い小鳥さんが欲しい。」
え~~~、ボクは真っ白の羽根に黒い模様、お腹が美しいターコイズブルーのインコだ。
このままじゃ、ボクは最初からミッション失敗だ。
小さなケージの中を見渡すと、黄色い鳥はいない。
けど、安心してる場合じゃない。
ボクは、その女の子に向かって、猛アピール。
女の子は、ボクたちのケージを眺めているものの、黄色い鳥がいないとでもいったような、さえない表情をしていた。
ボクは、鳥神様に苦情を言った。
なんでボクを黄色にしなかったんだよ!
でも、鳥神様は、笑いながら
「そこからが、お前の腕の見せどころじゃ」
ボクは再び、女の子に猛アピールした。
その甲斐あって、ボクは無事に、この女の子の家の一員となった。
ボクは、ひなと名付けられた。
愛を与えるという使命感には燃えているものの、何をすればいいのかわからなかった。
すると、鳥神様の声が聞こえた。
「この子が笑顔になること、ハートが温かくなることをするんじゃ。」
そんなことを言われても、何をしたらいいのか全く分からない。
とにかく、この小さな体を成長させて、飛べるようにならなきゃと思い、挿餌をパクパク食べた。
すると・・・
「ママ~、ひなちゃんが、ご飯沢山食べてるよ。」と、女の子がとても嬉しそうに笑った。
そうか、餌を食べるということが、女の子に愛を与えることなんだ。
そう思って、ボクは毎日餌をパクパク食べた。
少し大きくなると、小松菜や豆苗、リンゴなども食べさせてくれるようになり、やはり、ボクが食べるのを、笑顔で見守ってくれた。
しばらくすると、ボクは羽根も生えそろい、飛べるようになった。
部屋の中を飛ぶボクを見て、女の子はまた笑顔になった。
そうか、ボクが飛び回ることも、女の子に愛を与えることなんだ。
ボクが持ってきた、愛の粒は、どんどん女の子のハートの中にたまっていった。
そのうち、ボクは「ひなちゃん」と、人間の言葉がしゃべれるようになった。
女の子の耳元で喋ると、とびっきりの笑顔で、「ひなちゃん」と返してくれた。
そして、ボクは女の子の名前も覚えて、毎日喋りかけた。
女の子のハートの中には、特大の愛の粒が、どんどん溜まっていった。
こうして、ボクと女の子の日々は、毎日愛が飛び交う、素晴らしい世界を創っていった。
ボクは、ここにやってくる前に鳥神様から言われた、ボクがここにいられる時間のことを、忘れつつあった。
そんな時、ボクに病気が見つかった。
そういえば、鳥神様からこんなことを言われていたのを思い出した。
「お前の時間が終わりに近づくとき、病気というものになり、あまり食べられなくなる、飛ぶことも喋ることもできなくなる。」
そうか、ボクは残りの時間が少なくなったんだ。
けど、どんな時でも、僕の使命はただひとつ、愛を与えること。
女の子は、ボクが食べたり、飛んだり、喋ったりするのを、すごく喜んでくれた。
なのに、食べられなくなり、飛ぶことも喋ることもできなくなったら、どうやって愛を与えたらいいんだろう?
病気になって、だんだん弱っていく姿を見て、女の子は悲しんだ。
ボクを手のひらに乗せ、大きな涙を流した。
ボクには、もう何もできることがない。
愛を与えたい気持ちは、変わらないのに、ボクの体は日に日に弱っていき、お空に帰る日がやって来た。
ボクは、ミッションを成し遂げたのだろうか?
ボクが虹の橋を渡る準備をしている時、女の子はいつまでも泣き続け、ハートにたまった愛の粒は、まるで津波にさらわれるように、流れていくようだった。
ボクがここに来たミッションは失敗だ。
だって、こんなにも悲しませ、辛い思いをさせているんだから。
そう思ったら、お空に帰る途中のボクの瞳からも、大きな涙が流れた。
ボクは辛すぎて、女の子を見ることさえできなくなった。
なんで、こんなミッションをしなくちゃいけなかったんだろう?
やっとのことで、虹の橋を渡り、お空につくと、鳥神様が待ってた。
そして、「よく頑張ったな、合格じゃ。」と、ボクの頭を撫でた。
そんな鳥神様に、ボクは反発した。
「何が、合格だよ。ボクは、大好きなあの子を、こんなにも悲しませてる。」
耐えきれなくなって、ボクは叫んでいた。
すると鳥神様は、優しい口調で語りかけてくれた。
「確かに、今は、女の子は悲しんでいる。でも、よく見るのじゃ。
ハートの中の愛の粒は、涙と混ざり合って、大きな霧のようになり、女の子の周りを取り囲んでいる。
それは、決して消えることはないし、これからの女の子の人生をいつも見守るものじゃ。
お前を失って、こんなに泣いているというのは、そこに愛があった証拠じゃぞ。」
ボクは、鳥神様の言葉に、いつまでも泣いていた。
そして、体を失ったボクは光に戻り、女の子が愛を見失いそうになるたびに、小鳥の鳴き声、倒れる写真立て、道路に落ちている羽根など、ボクを思い出させるようなサインを送り、愛はそこにあることを伝えた。
女の子の人生は、楽しいことばかりじゃなかった。
けど、辛いことや苦しいことがあるたびに、愛を思い出すことで、精いっぱい人生を駆け抜けた。
そして、女の子がお空へ戻る日がやって来た。
ボクは、いつもは渡ってはいけない虹の橋を渡り、女の子を出迎える準備をした。
ボクは、愛を与えるために、女の子のもとに遣わされた。
けど、愛は一方的に与えるものじゃなくて、与え合うのだということを学んでいた。
女の子がこの橋のたもとに来たら伝えよう。
「僕もたくさんの愛を受け取ったよ」って。
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